イギリスに住んで15年になりますが、一番困ること、といえば医療です。
ヨーロッパの医療制度は進んでいると聞くけれど?
と、思うかもしれませんが、そんなことはなく、びっくりするほど『その逆』なんです。
この記事では、日本人にとっては『意外』なイギリスの医療システムとその問題点をわかりやすく解説します。
実際に利用してみると、どんな問題があるのかな?
イギリスの医療は、なぜ無料なのか?
イギリスの医療は無料です。つまり税金で運営されています。
なので、病院でお金を払う必要は基本的には全くありません。
イギリス以外でもヨーロッパの国は医療が無料という国は多いよ
これは、基本的に『貧富の差』で健康や人命に差別が生まれないようにという人権保護の観点からつくられている制度です。
なので基本的にイギリス人にとっては『病院でお金を払うなんてありえない』ことなのです。
一方で、アメリカは医療が有料なことで、よく知られているよね
こんな一見素晴らしい制度のように思えるイギリスの医療制度では、現実的にどんな問題が起こっているのか見ていきましょう。
イギリスの医療、無料の罠
まず無料が引き起こす問題点は以下の通りです。
- 順番待ちが長い
- 利用者が自分の希望する治療を選べないことがある
- とても軽い症状でも病院に行く人がいるので、病院が忙しく、スタッフが不足している
順番待ちが、非常に長い
まずは、予約をしないと診察してもらえないのですが、予約は1週間待ちが普通です。長いなんてレベルじゃありません。重めの風邪とか、腹痛とかになっても、その日のうちに見てもらうことができません。
予約不要の緊急病院というのもありますが、これは結構深刻な緊急さでないと追い返されてしまうことがあります。
緊急病院にいったら『遠慮しない』ことが重要です。
『おなかが痛いけど、我慢できる』なんて遠慮がちにいったら、『我慢してください』と言われて追い返されます。
風邪や腹痛で苦しんだらまず薬局に行くのが鉄則です。
病院でも、薬局でも言われることも、処方される薬も同じだからです。
自分に合う病院・治療を選べない
イギリスではGP(General Practitioner)と言われる一般主治医にまず診察してもらい、その後、専門医に振り分けられるシステムになっています。
耳鼻科や皮膚科、婦人科などと診察を受けたい内容が分かっていても、まず主治医に会わなくてはいけません。
そして主治医の判断で最終的な診察方針は決まるので、専門医を必ず紹介してもらえるとは限りません。
私の場合、皮膚に慢性的な症状があり、GPに相談をしたのですが、普通の薬局で売っているクリームを支給されただけで、それ以上の診察を受けることはできず、その後、症状も治りませんでした。
『再診』もないので、それっきり。
結局、100%自費の私立病院に相談に行くことになりました。
ちなみに歯医者だけは、なぜか主治医を通さず直接かかる事ができます。が有料です。
歯医者だけは日本の制度に近く、お金がかかります
病院が忙しい・スタッフ不足
イギリスの病院に行くとまずびっくりするのが、受付にたいてい銀行のようなプラスチックの壁が張ってあることです。
これは、コロナ対策ではないんです。
さらに、『スタッフに暴言を言ったり、口論をしたりしないでください』という注意書きが!
病院になぜこんな注意書きが?と思うかもしれませんが、病院の受付で予約がいっぱいだったり、診療が受けられなかったりで、病院スタッフと大喧嘩なんて光景はしょっちゅう見られます。
なので、初めから熱い壁が作ってあるんですね。
そんなわけで、病院スタッフの仕事環境は過酷です。スタッフが不足すれば、さらに病院が忙しくなり、予約も取りづらくなり、不満を言う人も増えるという悪循環が起きています。
スタッフ不足のため、病院の電話問い合わせは平日の午前中のみ対応なんてことも
イギリスで病気になったらどうするの
そんなわけで、イギリスで病気になったら大変です。
みんな、どんな風に病院を選んでいるんだろう
日本人向けの私立病院の利用
日本人で2年以下の滞在の場合は、まず出発前に日本で海外用の健康保険に入りましょう。結構値段が高いと感じるかもしれませんが、重要です。そうすると、日本人向けの私立病院が日本と同じ感覚で利用できます。
ただし、日本人向けの病院はロンドンにしかないのが難点です。
日本の保険が使える私立病院は郊外にもたくさんありますが、郊外では、よほど気に入った病院がなければ、イギリス国営のシステムを使う日本人が多いようです。また病院のためにわざわざロンドンまで出向く人もいます。
留学生や労働ビザ取得者などは手続きをきちんとすれば、国営のシステムを使うことができます。
旅行の場合は、かならず日本から保険に入ってね。
日本に帰って治療
風邪などの軽い病気は薬でしのいで、歯の治療、専門医の治療などは日本に帰った時にまとめてという人もかなり多いです。日本人の体にあった治療アドバイスが受けられますし、どんなに英語のしゃべれる人でも、やはり体の事となると、祖国、日本が安心ですよね。
日本一時帰国中のスケジュールは病院でいっぱいなんてことも
イギリスでは『健康診断を受ける』という習慣がないので、人間ドッグなども日本で受ける方が安く質のいい検査が受けられます。
日本で数万円の人間ドックと同じことをイギリスでしようとすると
20万円くらいかかると言われてびっくりしたよ!
健康保険に個人でも加入する
ここまでGPのシステムの問題を説明してきましたが、GPはそもそも自宅の近くで地域の主治医に登録することになっています。
ですので、地域によっても予約状況や医療サービスに差があります。
ロンドン、なかでも私の住んでいる地域は人口密度が高く、医療スタッフ不足が深刻と言われています。地域によっては、予約のすぐ取れるGPを主治医に任命することもできるようです。
イギリス人でも個人で健康保険に加入し、病気になったときは私立病院を自由に使えるようにすることもできます。
とはいえ、イギリス人は『医療にお金を払うなんて』という考え方が基本なので、自分でお金を出す人は、あまり聞いたことがありません。
ただし、企業の福利厚生の一環で、私立病院が利用できる保険を導入している会社は多くあります。
その場合は、会社から案内された保険会社を通して私立の病院を利用することもできます。
イギリスの会社の福利厚生は『年金サポート』、『私立健康保険』、『自転車やジムの割引パッケージ』が多いよ
私立病院の保険があれば、GPでうまく診察を受けられなかったときにも安心ですね。
今後、医療制度はどう改善されるの?
このような医療制度の緊迫した状況は2000年代から深刻な社会問題としてとらえられています。
イギリス人以外の移民が病院を使うことで財政が圧迫されているともいわれており、イギリスがEUを離脱したいと考え始めた理由の一つに、この移民と医療の問題も入っていました。
2020年コロナウィルスの影響もあり、国営の病院で受けられる医療行為は以前よりもさらに少なくなっています。
日本の医療制度にも問題があるといわれているかもしれないけど、
実際、イギリスの制度を使ってみると、日本の良さを痛感します。
病院にすぐ行けて、不安や傷みを何日も抱えなくていいというだけでも、
ありがたいことなんですね。
現在のところ、イギリスの医療システムに大きな変更が加わることはないようですが、今後海外滞在や留学を検討されている方は、各国の医療システムをしっかり調べて、安全な旅を楽しんでくださいね。